E3に初めて参加したのは、E3の前身であったCESというエレクトロニクスショーを経て、E3が発足した1995年でした。それから、すでに20年の月日が経過しました。
E3の内容や出展コンテンツなどはメディアにたくさん露出しておりますので、触れません。
今回、私のE3参加は主たる目的ではありませんでした。今回の私のロサンゼルスへの渡航目的はアタリの創業者ノーラン・ブッシュネル氏への取材が目的でした。
話が前後しますが、2014年の年末から「ATARI GAME OVER」という映像作品を追いかけていました。
この作品は1972年にテッド・ダブニーとノーラン・ブッシュネルが創業したATARIの成長から崩壊までを、ATARIのゲームクリエイターと『E.T.』(映画E.T./スティーヴン・スピルバーグ監督作品映画)ゲームソフトを通じて描いたドキュメンタリー作品です。
ATARIは、現在で例えれば、グーグルやフェイスブックのように急成長と発展を遂げた会社でした。また、ATARIが存在していなければ家庭用ゲーム機(ATARI2600)の市場への導入時期が変わっていたのかしれませんし、任天堂のファミコンもどうなっていたでしょうか。それだけ大きな影響力をもったゲーム機でありソフトコンテンツを供給した会社でした。
ATARIの崩壊は、一般的に82年のクリスマス商戦むけに導入した『E.T.』クオリティが低く、思い切って600万本を製造したが、実際には100万本程度しか売れず、その在庫と返品に依って、資金繰りが悪化し、会社経営が困難な状況に陥ったというのが通説です。
しかし、現在では『E.T.』1作品で会社がおかしくなったという通説は無かったと言われており、複数ソフトの粗製乱造やサードパーティーソフトの品質管理の徹底ができなかったことなどの複合的な理由でATARIは最終的には会社分割の憂き目に遭います。
事実、当時のATARIゲームのクオリティレベルはバラバラだった思われます。その後、任天堂が品質管理に力を入れたのはATARIの事例を反面教師にしたからに違いありません。
私が「ATARI GAME OVER」に興味を持ったのか・・・という点は5つありました。
1. 日本人にはなじみが薄いがファミコン以前に北米で市場を形成したゲーム機への興味
2. アタリショックというゲーム市場が崩壊した事象とはなんだったのか
3. 砂漠のゴミ処理場に『E.T.』のゲームカートリッジが数万本廃棄されたことと、その発掘調査の行方
4. 『E.T.』を開発したゲーンクリエイターの失われた30年の人生の物語
5. ゲームやエンタテイメントコンテンツの未来
なかでも、廃棄(埋葬)処分された『E.T.』ゲームカートリッジの発掘は、現代遺産の発掘です。
いわば、シュリーマンのトロイの遺跡の現代版のようなロマンがあります。それが、ゴミ捨て場だったというのはやや抵抗がありますが、現代の宝物はゴミ捨て場にあるというのはあながちウソではないかもしれません。
そしてもうひとつは『E.T.』を開発したクリエイター・ハワード・S・ウォーショウの人生です。彼は5週間で『E.T.』を開発しました。結果は惨敗、会社は多くの返品と在庫を抱え、1万人いた従業員は2千人まで削減されました。さらにハワードはクソゲー開発者という烙印を押され業界を追われました。
それから約40年の月日を経てニューメキシコ州アラモゴード市のごみ処理場から『E.T.』は発掘されるのでしょうか。失われたハワードのその後人生はどのようなものだったのでしょうか。
できれば読者の皆様には「ATARI GAME OVER」の本編をご覧いただきたいと思います。歴史は繰り返すというように、未来のことを考えるには過去を振り返ることが必要ではないでしょうか。また、同時にアラン・ケイの「未来を予測する最善の方法は、自らの手でそれを創り出すことだ」の言葉のように自身で切り拓くことも必要でしょう。
「ATARI GAME OVER」はその両方の示唆に富んだ良質な作品です。ご高覧いただければ幸いです。
※なお、ノーラン・ブッシュネル氏の単独インタビューは後日「ザ・インタビューズVOL.4」として掲載いたします。
DVD「ATARI GAME OVER」
2015年9月16日発売
http://www.amazon.co.jp/dp/B011QOTUH2
「ATARI GAME OVER」特別上映会 9月5日開催 秋葉原アキバシアターにて開催
黒川塾28「クリエイターのシンギュラリティ」8月20日開催 ご参加お待ちしております。
■著者紹介
黒川文雄
くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHNjapanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。「ANA747 FOREVER」(映像作品)「アルテイル」「円環のパンデミカ」「モンケン」「鬼畜教師(仮)」他コンテンツプロデュース作多数。
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