【CEDEC2016】ゲーム技術を業界外へ持ち出そう!サウンド技術から切り開く新ビジネスへの挑戦事例 | GameBusiness.jp

【CEDEC2016】ゲーム技術を業界外へ持ち出そう!サウンド技術から切り開く新ビジネスへの挑戦事例

株式会社バンダイナムコスタジオ VA第2開発本部 大久保博氏と、技術統括本部 高橋みなも氏は、CEDEC2016の講演でゲーム技術を新規ビジネスとして他の業界へ持ち出す際のノウハウや他業種との協力事例に関する講演を行いました。

ゲーム開発 プロデュース
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株式会社バンダイナムコスタジオ VA第2開発本部 大久保博氏と、技術統括本部 高橋みなも氏は、CEDEC2016においてゲーム技術を新規ビジネスとして他の業界へ持ち出す際のノウハウや他業種との協力事例に関する講演を行いました。

本日のアジェンダは以下のとおりです。
・自己紹介
・はじめに
・ゲーム開発現場から新たなサービスや商品発想のきっかけ
・技術や新しい発想はある~ビジネス化への挑戦
・事例紹介
・講演のまとめ

プロフィールから見る「他業種へ目を向けたきっかけ」


大久保氏は94年にサウンドクリエイターとして株式会社ナムコに入社後、サウンドディレクターやコンポーザーとしてリッジレーサーシリーズやアイドルマスターシリーズなど数多くのゲームサウンド開発に携わり、東映アニメーション「京騒戯画」音楽プロデューサーやNHK「メディアの目」出演などゲームにとどまらない活動をしています。
高橋氏は95年に株式会社ナムコに入社し、アセット実装設計やワークフロー構築などサウンドクリエイターの技術サポートを中心に携わる傍ら、現在は後述のVSSS(バーチャルサウンドスケープシステム)の研究開発及び営業を担当しています。

もともとゲーム開発技術を応用してビジネスフィールドを拡大したり、開発ノウハウをビジネスに活用したり、こうした新しい分野をサウンド業務の経験から拡げて行きたいという思いが強かったと大久保氏は語ります。そんな中、NHK番組「メディアの目」に携わった実績や大学での講義経験から普段の業務を自己分析してみたところ、音楽業界と比較してゲーム業界ならではの独自性が存在することを再認識できたそうです。


大久保氏は「社内外でサウンドチームのプレゼンスを上げたい」「自転車操業ではなく、ある程度潤った状態で楽しくモノづくりがしたい」「フィールドを拡大したい」、そういった想いから新規事業へ挑戦を行う事を決意したとのこと。

ゲームにおけるサウンドデザイナーの仕事は、音と映像で表現されるインタラクティブコンテンツであるTVゲームを通じたユーザー体験の創造、つまりユーザーエクスペリエンス(UX)に関する内容です。ユーザー体験というのは、ゲームであれば没入感やストーリーを見た時の感動、手触りやUIなどが挙げられますが、そういったものをサウンド面で支えるのが主な仕事です。


音の機能性を理解し、目的に合った音響企画・演出を行うのがサウンドデザイナーの仕事。


緑の枠で書かれている部分が担当するフィールドとなる。

制作ノウハウや音の機能に関する知識、音響知識やコンピューター知識だけでなくセンスも必要となるこの仕事は、一般的な音楽制作スタジオや効果音スタジオと異なり、体験をデザインしていくところがユニークです。まとめますと、「体験を与えることを目的とするUXサウンドデザインとゲーム制作で培った高度な音響制御技術」がゲームサウンドの独自性だと大久保氏は言います。



既に開発経験の豊富な企業内においては、テクノロジーや開発環境、コネクションを既に所有していること自体が強み。実際にCEDECでは同社の技術関係の講演も数多く行われた。

技術や新しい発想はある~ビジネス化への挑戦


大久保氏は2010年頃からサウンド業務の傍らで自ら企画立案を始めたそうです。思いついた企画を次々に提案する中でピックアップされたのは、2012年に発案されたNuSoundの技術を用いたサウンドスケープアプリでした。これを元に作成されたのが、VSSSです。


PowerPointを利用して作成された3枚のスライドが実際の企画書。2012年7月に作成された。

VSSSについては、高橋氏より詳しい説明がありました。VSSSはゲームに使用されているバーチャル世界の音響表現及び制御技術を応用し、リアルワールドの音響空間演出をする事が出来るインタラクティブサウンドスケープシステムです。例えば森林や宇宙など様々な情景をシーンという形で持っておき、それらのシーンをタイマーやセンサーを用いて制御します。


高橋氏より詳細な説明のあったVSSSの概要の資料。かなりのゲーム技術が投入されている。

システムの大きさはかなり柔軟に変えることが可能で、一般的なステレオ環境となるスピーカー2基の2chから、壁一面に対して高さの表現を加えた4ch、天井面と床面に4chずつスピーカーを配置する8chなど環境に合わせた提案が可能です。また8ch全てをモノラル制御して個別の音源を流すことも可能で、上下サラウンドサークルの8chにそれぞれ役割の異なるモノラル8chを組み合わせた合計16chの複雑な音空間を表現することも可能です。


様々なセンシングや時間経過によるシーン切替で音空間がシームレスに変化していく仕様は、あたかもプレイ中その場にいるかのようなサウンド演出を行うゲームサウンドならでは。

新規ビジネスを売り出した先は「他業種の商談会」


VSSSは社内でのプレゼンテーション活動により支持を集め、新規事業として好スタートを切る事となりました。売り込み方は、技術力や提案内容のユニークさを知ってもらう目的もあり「商談会に出展する」という手段を取る形となったそうです。
これまでに出展した商談会は3回で、1回目は2013年7月に開催された「プロダクションEXPO」でした。プロダクションEXPOはコンテンツ制作会社がメディアや企業、地方自治体に対して自分自身を売り込む場所であり、バンダイナムコスタジオも3日間の展示を行いました。出展にあたっては、ゲーム業界ならではの技術力を活かしたVSSSプロトタイプによるインタラクティブな音響演出体験で「技術力」「他業種とも業務委託が可能」という部分をアピールし、結果的に25社との商談を行う事が出来ました。その結果、こうした商談会には技術デモではなくもっと具体性を持った「商材」を持って行く必要があることが分かり、また予想に反してイベント企画制作、店舗企画担当や担当代理店にニーズがある事が分かりました。


プロダクションEXPOの様子。目的と手段、結果と考察が1スライドにまとまっている。

2回目の出展は2014年7月に東京ビッグサイトで行われた「第1回ライブイベント産業展」でした。ライブイベント産業展は企画制作や運営、音響、ホールや施設などの展示が多く、ここでは前回興味を多く示してくれたイベント企画制作運営、音響演出・舞台演出などを対象にセグメントの絞り込みを行いました。結果的に85社との商談があり、「どうやったら買えるのか、仕様の相談は可能か」などの前向きな結果を得ることが出来ました。このことから商談会においてはターゲッティングが非常に重要である事が分かり、更にこのセグメントにはゲーム技術がとても有効だという事も分かりました。また、商談の中で、システムを販売するのではなくサウンドデザインを含めたサービス展開を行う形が有効という気づきを得ることが出来たそうです。


ライブイベント産業展では、セグメントの絞り込みを行ったことで具体的な商談に発展するケースが増え、85社との商談を取り付ける事に成功した。

3回目は2016年7月に行われた「店舗・販促EXPO」でした。店舗・販促EXPOはデジタルサイネージ系や店舗什器など店舗向けの販促専門展で、これまでの経験から「バンダイナムコスタジオ自身が提供できるサービスの具体的な形」およびその金額を定めて展示を行いました。ショップの規模に合わせてカスタマイズで音源を制作でき、納期や価格がどの程度掛かるかなどを具体的にしてから展示を行ったことで、62社との商談を取り付けることが出来ました。想定した客層とは少し違ったものの、パッケージ導入ニーズの方が店舗ごとのカスタマイズニーズよりも大きいことが分かりました。


店舗販促EXPOでは更に具体的にサービスの形を定めてから展示を行った。予想に反して店舗企画関係者が少ない中、一定の商談数を上げる事に成功した。

まとめますと、「強みを踏まえて仮説・作戦を立てる」、「作戦結果から仮説が正しかったのかを検証する」「セグメンテーションなどを含めた分析を行う」というものを繰り返し、VSSSの製品としての具体性を高めていくことが、大久保氏と高橋氏の商談会活用法ということです。また、このサイクルの中で生まれた気づきの考察として、「技術だけを売り込むことは難しい」、「VSSS自体をプラットフォーム化してデータ追加供給などサポートの部分で収益を上げる方が良い」といった内容が挙げられました。同時に医療系などバジェットが大きい会社もいれば個人商店もあり、予算もやりたいことも多様であることや、そもそも新しい製品のため相場観が全くなかったりといった悩みも出てきたそうです。


作戦、結果、気づきのサイクルを3回繰り返し、その都度改善点などが浮き彫りとなった。

そして、こうした出展の副作用として「コネクションが広がり、関連業務の受託に繋がった」と大久保氏は語ります。提携企業について、本記事で掲載出来ない企業もありますが、例として上がった事例は以下のとおりです。


「SDMワーキング・グループへの採用」ーゲームオーディオ制御技術に関する情報提供(ゲーム分野で発展している音のオブジェクト化)を行った。


「KORG Gadget」ーバンダイナムコスタジオ社内技研で進めていたゲーム用サウンドライブラリNuSound用内蔵シンセの研究結果を販売するにあたり、ハードウェアの制作に長けるKORGと共同開発を行った。


「屋内砂浜 海の子でのVSSS採用」ーシステム間通信仕様・発音制御仕様提案など、VSSSとプロジェクションマッピングを利用したショッピングモールにいながら海にいるような体験を得ることが出来る施設のサウンドデザインを受託開発の形で行った。


まとめーゲーム業界の我々が求められたモノ


展示会をきっかけとした数々の業務提携経験から、他業種から求められる要素を割り出していった結果、「エモーショナル表現」「UX、UI部など導入や手触り感」などゲームならではの要素が歓迎されたと大久保氏は説明します。ゲームは未来も過去も、宇宙や深海も、実際には存在しない空間さえ作れてしまうバーチャル(仮想)なものです。フェイク(偽物、模造品)ではなく、サウンドスケープという空間演出において「きちんと計算されたバーチャル体験をさせてあげる」という設計が、他業種にとっては驚きだった様子でした。

3回に及ぶ商談会、200社近い企業との商談の結果、ゲーム開発経験を生かしたUX、UIなど導入や手触り感の部分などが技術的にもセンス的にも求められていることが分かってきた。

こうした新規ビジネスの業界外への営業方法はきちんとした知見がなく、Googleなどで検索しても必要な情報はヒットせず逆に「なぜうまくいかないのか?」などネガティブな内容の情報ばかり散見するのが現状です。既存坂路に頼らない商談会などの方法論や「技術そのものは売らずサービスとして売る」という、売るもの・売らないものの線引きなどは、大久保氏、高橋氏両名自らがトライアンドエラーの中で見出した大切な要素です。「やれるところからやっていく」、時間も掛かり難易度も高い新規ビジネスを売り出していくにあたって出来うる限りを尽くすことの重要性を改めて実感する講演でした。

《神山大輝》

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