大宮ソフトと『カルドセプト』の歴史に見るゲーム業界の変遷~DiGRA JAPAN年次大会基調講演 | GameBusiness.jp

大宮ソフトと『カルドセプト』の歴史に見るゲーム業界の変遷~DiGRA JAPAN年次大会基調講演

日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)は2月27日・28日に2015年度年次大会を芝浦工業大学大宮キャンパスで開催。基調講演にて大宮ソフト取締役社長の鈴木英夫氏が登壇し「大宮ソフトの歴史を紐解く ~経営デザイン・技術の視点から~」とという公演を行いました。

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日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)は2月27日・28日に2015年度年次大会を芝浦工業大学大宮キャンパスで開催しました。基調講演では「大宮ソフトの歴史を紐解く ~経営デザイン・技術の視点から~」と題して、大宮ソフト取締役社長の鈴木英夫氏が登壇。同社の歴史や『カルドセプト』シリーズの変遷などが語られました。

基調講演は『ことばのパズル もじぴったん』シリーズの生みの親として知られる、神奈川工科大学情報メディア学部・中村隆之氏との対談形式を通して展開しました。中村氏は「『もじぴったん』は大企業内での小規模プロジェクトで、大宮ソフトのゲーム作りと似て非なる部分もあり、そこが興味深い』と語り、さまざまに話が展開していきました。

神奈川工科大学情報メディア学部・中村隆之氏

◆大宮ソフト作品履歴

(大宮ソフト前史~メサイヤ時代)
1989年 モトローダー(PCエンジン)
1990年 ガイフレーム(PCエンジン)
1990年 重装騎兵レイノス(メガドライブ) 
1992年 重装騎兵ヴァルケン(スーパーファミコン)

(大宮ソフト設立 1993年)
1994年 ロードモナーク とことん戦闘伝説(メガドライブ、セガ)
1996年 フロントミッションシリーズ ガンハザード(SFC、スクウェア)
1997年 カルドセプト(セガサターン、セガ)
1999年 カルドセプト エキスパンション(PS、メディアファクトリー)
2001年 カルドセプト セカンド(DC、セガ)
2002年 カルドセプト セカンドエキスパンション(PS2、セガ)
2006年 カルドセプトサーガ(Xbox 360、バンダイナムコゲームス)
2007年 機構装兵アーモダイン(PS2、SCE)
2008年 カルドセプトDS(DS、セガ)
2012年 カルドセプト(3DS、任天堂)
2016年 カルドセプト リボルト(3DS、任天堂)*予定

◆なぜ大宮なのか


もともと日本コンピュータシステム(メサイヤ)で、『レイノス』『ヴァルケン』などの開発に携わっていた鈴木氏。しかし本人曰く「作りたい物を自由に作らせてもらえる反面、ヒット作に恵まれず、このままだらだらと作り続けていて良いものか」という漠然とした危機意識があったといいます。

また会社まで片道1時間半かかる通勤時間もネックでした。そんな中、鈴木氏と同じく埼玉県に住んでいた仲間内で「大宮あたりに『大宮ソフト』を作って、そこでゲームが作れれば良いのになあ」という話が出始めます。しばらく後「大宮ソフトはいつ起業するんだ? 起業しなくてもオレたちは辞める」と迫られ、3人で起業することになりました。

大宮ソフト取締役社長・鈴木英夫

「だから会社が嫌いになったとか、喧嘩別れとかじゃなくて、会社勤めが大変だったから起業したんです。創業メンバーの中心地点が大宮で、マンションの一室でした。畳の部屋があるから泊まれるなどと喜んでいたのです。今だと、お洒落なオフィスで起業する人が多いじゃないですか。大宮ソフトの地味な感じを良く現していますね」(鈴木氏)

◆パブリッシャーが次々に変わる『カルドセプト』


1993年に創業後、最初に手がけたのが『ロードモナーク とことん戦闘伝説』で、第二作が『フロントミッションシリーズ ガンハザード』でした。しかし、初めてのRPG制作にチームが疲弊し「本作は自分にとってのベトナム戦争。当時のことは余り覚えていないほど」(鈴木氏)という事態に陥ります。

もっとも当時はRPG全盛期。家庭用ゲームの主戦場で戦うなら、RPG制作を避けては通れません。そこで「次の大作ソフトの箸休め的な気持ちで……」と企画したのが、初のオリジナルタイトルとなる『カルドセプト』でした。1996年にセガ・エンタープライゼス(当時)から発売され、以後20年も続くロングセラータイトルとなります。

もっともゲーム業界の変化に伴い、『カルドセプト』の発売元が次々に変わっていくことに。『ロードモナーク』以来のおつきあいで、鈴木氏曰く「困ったときのセガさん」と言うほどだったセガも、徐々に内製ゲームのみにシフトしていきます。もっともIPの魅力は健在で、2012年に任天堂から3DS版をリリース。最新作は2016年7月に発売予定です。


◆技術的視点と経営的視点はコインの裏表


『カルドセプト』シリーズはスーパーファミコン時代から作り方が変わっていない……鈴木氏はこう語ります。これは少人数の開発チームで、職分をまたいだ開発スタイルを続けているという意味。実際に今でも同社は総勢5名という「少数精鋭」を続けています。しかも長寿シリーズの強みで、社内に『カルドセプト』エンジン的なものがあるといいます。

これまで(3DSで状況が変わろうとしていますが)1ハード1ソフトというペースを保ってきた本シリーズ。しかし新規ハードでも実装自体は早く、だいたい開発スタートから半年程度でチューニングが始められるほどとか。鈴木氏は「本作のようなボードゲームは、いかに早く動く物を作って、調整期間を長く取るかが重要だ」と語りました。

もっとも、これは消極的選択の結果だとも言います。少数精鋭にこだわるのも、裏を返せば固定費を下げたいから。下手に人を増やして、固定費のために本意ではないゲーム作りをするような事態は避けたいというわけです。設立当初、資金繰りの問題で一時的に給与の遅配が発生したことが、いまだに鈴木氏の中で尾を引いているともいいます。

大宮ソフトの目的は生き残り続けること……鈴木氏はこう語りました。そのための最重要課題になっているのがゲーム開発の共有フレームワークを構築して、効率化を進めることです。しかし少数精鋭が仇となり、ゲーム開発の属人化が進んだ結果、逆に難しくなっている場面もあるとあかします。

また、さすがに現状では5名でゲームをすべて作るわけにはいかず、協業会社やフリーランスとの連携が必須になっています。そうすると、業務の大半が他社への発注と納品物のチェックに終始してしまうことに。鈴木氏から「そこまでかたくなに人を増やさないのも、変だなとは思います」という言葉も聞かれました。

◆コミュニティと共に創り上げていきたい


「ヒットしたいという気持ちはあります。しかし、それもお金持ちになりたいというより、ゲームを作り続けたいという気持ちが強いんです」(鈴木氏)。ゲームがヒットしたら、営業先で認知度が高まる。そうしたら仕事がとれる確率が高くなる。そのためには自社のコストを最適化することが重要……それが鈴木氏の考える「経営戦略」です。

目下の理想はコミュニティとの連携強化。実はファンの間では「大宮ソフトは『カルドセプト』のことを何もわかっていない」というのが定説なのだとか。実際、新作ごとに調整には大きな費用がかけられていますが、それでもユーザーのやり込み度合いに勝るものはありません。そこでユーザーとWin-Winな関係を築けないかというわけです。

「1~2人でのゲーム作りにすごく憧れる」という鈴木氏。AAAゲームが市場を席巻する中で、「まるでシーラカンスのよう」だとも語られました。しかし、そんな絶滅危惧種がいまだに生き残っていることに、皆さんほっこりされるのではないか、とも言います。「これからもゲーム業界で、しぶとく生き残っていきたいですね」。
《小野 憲史》

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