【CEDEC 2015】それで君は何を作る?聴衆に呼びかけた中村伊知哉氏の基調講演 | GameBusiness.jp

【CEDEC 2015】それで君は何を作る?聴衆に呼びかけた中村伊知哉氏の基調講演

8月26日にスタートしたCEDEC2015。初日の基調講演で、元パンクロックバンド「少年ナイフ」のメンバーで、旧郵政省官僚、MITメディアラボ客員教授、スタンフォード日本研究センター所長、慶応大学教授など、さまざまな経歴で知られる中村伊知哉氏が登壇。

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8月26日にスタートしたCEDEC2015。オープニングをつとめる初日の基調講演で、元パンクロックバンド「少年ナイフ」のメンバーで、旧郵政省官僚、MITメディアラボ客員教授、スタンフォード日本研究センター所長、慶応大学教授など、さまざまな経歴で知られる中村伊知哉氏が登壇。「つくる、ということ」という演題でこれまでの取り組みを紹介すると共に、独自のデジタル論・日本人論を展開しました。

これまで50年以上の人生の中で、さまざまなモノを作ってきたという中村氏。そのテーマをひとことで示すと「デジタル(技術)とポップ(文化)の融合で、新しいものをつくる」というものです。しかし、これに正面から向き合うと、デジタルや日本文化の特性を考えざるを得ないようで、さまざまな事例と共に議論が縦横無尽に展開。ここでは、それぞれの要素を分解して再構成しつつ、論旨を紹介します。

僕はこんなものを作ってきた



まず「デジタル」分野で紹介された代表例が「超人スポーツ」です。これはデジタル技術を使用して、誰もが人間自体の身体能力を超越したり、年齢や身体差などから生じる対人感のバリアを越える「超人」となり、さまざまな競技を楽しむスポーツの概念。オリンピック種目には人と馬が「人馬一体」で競う馬術競技がありますが、こちらはいわば「人機一体」のスポーツ領域だといえるでしょう。





一方で「ポップ」分野では、日本の音楽を海外に発信するプラットフォーム「Sync Music Japan」や、日本の「カワイイ文化」を世界各地でローカライズし、紹介していく「Tokyo Crazy Kawaii」などが紹介されました。中村氏が副理事長をつとめ、こどもたちの創造や表現力をテーマにしたワークショップなどを開催するNPO、CANVASの取り組みの紹介もありました。





そのうえで最新事例として紹介されたのが「街づくり」です。東京都港区竹芝地区にデジタル・コンテンツ特区を作るというもので、受け皿として中村氏が理事長をつとめる一般社団法人CiP(Contents Inovation Program)が発足。すでに特区認定もすませています。中村氏はプロデューサーとして「研究開発」「人材育成」「ビジネス開発」を進め、竹柴を核として世界にコンテンツビジネスを広げていきたいと抱負を語りました。



クリエイターは300年後の社会に責任を持つべきか?



一方で中村氏はコンテンツの意義や価値についても話を進めます。歴史を紐解くと、コンテンツの流通はグーテンベルグが15世紀に発明した活版印刷で始まりました。これをきっかけに、欧州では宗教改革が始まり、大航海時代を経て、産業革命へと進みます。ではグーテンベルクは3世紀にもわたる社会の大変革を予期していたでしょうか。そして今、ゲームクリエイターは300年後の社会を予見しながらゲームを作っているでしょうか。もちろん、それは無理な話でしょう。技術は技術でしかないからです。

デジタルで幸せな社会を築くのも、不幸にするのもユーザー次第・・・。象徴ともいえるのが9.11とイラク戦争です。ネット論壇では戦争反対の声も上がりましたが、結局は開戦となり、GPSやウェアラブル端末などのデジタル技術が戦場で用いられることに。技術進化の速度はますます速まり、社会の不安も広がっています。京都大学でおきたケータイによるカンニング事件は全国の大学をゆさぶりました。その一方でデジタル社会の中、「共に学び、教えあう」教育の重要性が叫ばれるという、皮肉な事態もみられます。

こうした状況の中でクリエイターは何を作るのか、そしてその意義は何か。中村氏は意義はともかく、表現という意味では日本人は世界をリードしていると紹介しました。女子高校生のケータイ文学や、twiter上での「バルス」事件、そして主婦の手による「キャラ弁」などです。「日本は世界中で創造的な国だと思われているが、日本人自身はまったくそう思っていない」という資料などを引き合いに出し、「もう少し日本人は世界に自分たちのユニークさを発信してもいいのではないか」と呼びかけます。


日本人は世界からクリエイティブと思われている


しかし自身をクリエイティブと考えている人は僅か19%しかいない

■アメリカとは正反対で動く京都の和服ビジネス

また「クールジャパン会議で口が滑ったことで、和服を着て生活するようになった」という中村氏は、京都の和服ビジネスの特異性を目の当たりにし、仰天することになりました。一人の上客を何人もの職人や小商いが共有し、反物や帯などを分担して販売していく様は、MBAに代表される最先端のビジネス慣習とは正反対だと言うのです。「どちらが良い悪いではなく、自分たちの住んでいる地域にそうした価値が埋もれていることに、気づくことが大事」だと中村氏は指摘します。

「結局のところ、作り続けることしかない。Imagine & Realizeだ」という中村氏。価値や意義を議論する暇があれば、己の信じるところに従って手を動かし、モノを作れということなのでしょう。また「作る」という行為にも、0を1にする、1を10にする、10を100にするなど、さまざまなレイヤーや取り組みが存在します。いちばん良くないのは議論だけして手を動かさないこと。「それで、君たちは何を作る?」と呼びかけ、拍手の中で講演は締めくくられました。
《小野憲史》

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