VRの没入感をどう広告で伝えるか? ・・・小霜和也「ゲーム広告はこう作れ」第7回 | GameBusiness.jp

VRの没入感をどう広告で伝えるか? ・・・小霜和也「ゲーム広告はこう作れ」第7回

ゲーム業界の皆様、こんにちは。

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このコラムを読んでいる方の中には、ロスのE3から帰ってきたばかり、という方も多いんじゃないでしょうか?しばらくぶりにロスに行って、なんだよ、ストリップはコーラしか飲めなくなったのかよ!といった不満をまだ引きずっている方も多いんじゃないでしょうか?

さて、今年のE3はさながら「VR祭り」の様相だったようですね。

かなり大量の対応ソフトが出展されていて、正直、これは僕の予想を超えてました。海外でも、やはり新体験ホビーへの渇望が激しく起きているんですね。そして、ここまで「Oculus vs. Morpheus」の構造が激化しているとは。


OculusもProject Morpheusも大盛況だった(写真はOculus)


VRの真骨頂は全く別の世界にいるような体験ができる、ということであり、たとえばサムソンが病気で動けない子どもにVRで遊園地体験をさせるとか、NYのノースフェイスの店頭でさながら山にいるような体験ができるキャンペーンをやったりなどしていますが、VRがBtoBに馴染むのは、速く走るためのクルマ、空を飛ぶための飛行機、遠くを見るための双眼鏡、重い荷物を持ち上げる支援ロボット、などと同様、人間の能力を延長させるデバイスであるからです。

そういったものもほとんどがBtoBから導入されて一般家庭に落ちてきたわけで、VRもそのようになるのが自然であると思われます。そもそもFacebookがOculusを10億ドルで買収した狙いはホビー市場開拓ではないはずなのですが、取り巻く周囲がそれを許さないような、そんな印象を受けました。

さておき、OculusもMorpheusも来年から一般向けに発売開始されるようですが、僕のような広告クリエイターが悩むのは、これ、確かこのコラムの第一回でもお伝えしましたけど、それらの「没入感」をどう広告で伝えるかです。

TVCMであれグラフィックであれ、そのハードでしか体験できないものをそのハードじゃないもので伝えろ、というのはものすごく無理のあることなわけです。

昔からこの矛盾を抱えている商材としてはたとえば「テレビ受像器」があります。「4Kは美しい」というCMを作っても、その美しさは普通のTVでは見られないわけです。今回はこのような、ハードの矛盾を乗り越える表現の手口について少し紹介しましょう。

ひとつは、「すり替え」です。

先ほどの4Kのキャンペーンでもすでに見られますが、「日本の美しい風景」などを見せる。美しい状況とか美しい人とかを見せることによって、「美しい」の意味は異なるわけだけど、「なんだかキレイってことを言ってるんだな」とすり替えるやり方。意味の近いところで表現する、というのは非常に多い手口です。

VRの没入感にこれを流用すると、たとえば、戦場のど真ん中にひとりだけソファーに座っている男がいるとか・・・。

本来の没入感はそこに「自然に」存在する感覚を与えるものなので、意味が異なるわけですが、うまくすり替えるわけです。今後皆さんはこういった表現のVRソフトCMをいくつも見ることになると思います。

ひとつは、「開き直り」。

ものすごく昔の名作CMで、SONYの「タコの赤ちゃん」というものがありました。タコの赤ちゃんが生まれるシーンを流して、これが微細でかつ非常にかわいいんですけど、「できればトリニトロンで観てほしい」とやるわけです。

あなたのハードではこの映像の真骨頂を伝えるのは無理があるから、新しいハードで体験するしかないよねと。VRのCMに応用するならば、たとえばアイドルのライブをTVにかぶりつくように観ている男に、「あそこに入っていく方法がありますよ!」といったメッセージを言う的な。

ひとつは、「そのまま」。

VRは左右の映像の差分によって没入感、パノラマ感を表現するわけですが、それをそのままTV画面上で見せてしまう。当然ながらヘンテコな映像になってしまいますが、お宅のハードが対応していたらVRで観られますよ、ということですね。

「これ、対応ハードで観たらどう見えるんだろう」という期待感を抱かせることはできると思います。ちょっと異なりますが、PS3の導入時に近いことをやりました。これはどちらかと言えば企業の意地的なものではありましたが・・・。

何しろブルーレイでハイビジョン映像が観られるのが売りの一つだったわけですから、CMもハイビジョン、5.1chの音声で作らないとダメだろうと。あまりにもデータが重くなり、編集室で数秒の修正をかけるだけで1時間待ちとか・・・。当時、ハイビジョンのテレビ受像器なんてほとんど普及していなかったのですが。あの苦労は、ほとんど伝わってなかったでしょうね・・・。

余談ですが、「ハコスコ」などスマホを利用するVRでは上で言ったような左右の差分を利用しない単眼視のものもあります。が、「ハコスコ」は元を辿ればSR(Substantial Reality)の研究から出てきているものなので、目指しているものが異なります。OculusやMorpheusがまさにそこにいる没入「感」を大事にする一方で、プレイヤーが見るものを決める、いわば体験型「物語」を大事にする勢力もある、ということです。ちなみに後者の勢力はまだ日本にしかないようです。

さて、VRを異ハードで表現するもうひとつの新しい手口は・・・。
これ以上は自分の商売のネタになりますので、今回はここまで!


■著者紹介

小霜和也 (こしも かずや)
コピーライター、クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント。博報堂でコピーライターを務めた後、独立し現在は株式会社小霜オフィス、ノープロブレム合同会社代表。プレイステーション、KIRIN一番搾り、その他日本を代表する数々の広告キャンペーンを手掛けてきた。ゲーム関連での実績多数。近著「ここらで広告コピーの本当の話をします(宣伝会議)」が大ヒット中。
ノープロブレム合同会社 / 小霜オフィス
《小霜和也》

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