【DEVELOPER’S TALK】100万ID突破!12年を経て登場したナンバリングタイトル『ファンタシースターオンライン2』で実現した「無限に楽しめるゲーム音楽」とは? | GameBusiness.jp

【DEVELOPER’S TALK】100万ID突破!12年を経て登場したナンバリングタイトル『ファンタシースターオンライン2』で実現した「無限に楽しめるゲーム音楽」とは?

2000年にドリームキャストで登場した『ファンタシースターオンライン(PSO)』。そこから12年の時を経て、『ファンタシースターオンライン2(PSO2)』がリリースされました。ゲーム内容もさることながら、コンソールからPC・PlayStation®Vita・スマートフォン向けのマ

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2000年にドリームキャストで登場した『ファンタシースターオンライン(PSO)』。そこから12年の時を経て、『ファンタシースターオンライン2(PSO2)』がリリースされました。ゲーム内容もさることながら、コンソールからPC・PlayStation®Vita・スマートフォン向けのマ
  • 2000年にドリームキャストで登場した『ファンタシースターオンライン(PSO)』。そこから12年の時を経て、『ファンタシースターオンライン2(PSO2)』がリリースされました。ゲーム内容もさることながら、コンソールからPC・PlayStation®Vita・スマートフォン向けのマ
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2000年にドリームキャストで登場した『ファンタシースターオンライン(PSO)』。そこから12年の時を経て、『ファンタシースターオンライン2(PSO2)』がリリースされました。ゲーム内容もさることながら、コンソールからPC・PlayStation®Vita・スマートフォン向けのマルチプラットフォームへ。そしてパッケージから基本プレイ無料タイトルへと、さまざまな意味で前作から大きな変化を取り入れたタイトルとなっています。

またサウンドにおいても、「無限に楽しめる音楽」というコンセプトのもと、プロシージャルなBGM制作が行われました。それを支えたのがセガ内製ツール「Sympathy(シンパシー)」と、CRI・ミドルウェアの製品群です。内製ツールとミドルウェアの組み合わせ方なども含めて、たっぷりと伺いました。



■参加者

酒井智史 『PSO2』プロデューサー。初代『PSO』からシリーズに参加。

小川卓哉 プランナー。『PSO2』ではアシスタントディレクター・サウンド企画担当で、サーバ周りの担当も務める。

小林秀聡 サウンドクリエイター。初代『PSO』以降、すべてのタイトルでサウンドを担当している。

今別府デニス幸生 プログラマー。『PSO2』ではサウンド、UIなどのシステムのプログラムを担当。

増田亮 プログラマー。『PSO2』ではUI、サウンドおよび関連ツールの作成を担当。

■聞き手

土本 学  インサイド編集長
CRI・ミドルウェア

■もっとオンラインに向き合ってみたかった

―――今日はよろしくお願いします。『PSO2』のプロシージャルサウンド表現については、CEDEC2012の講演「Phantasy Star Online 2におけるプロシージャルBGMシステム」でも発表されましたが、本日はその内容をふまえて、ミドルウェアとのかかわりなど、周辺領域についても、いろいろとお話をお伺いしていきたいと思います。

(※1)プロシージャルBGM:ゲームの状況に応じて自動生成されるBGM。決まったフレーズでBGMが変化するのではなく、フレーズの組み合わせ自体が変わるため、ダイナミックに変化する。

―――はじめに『POS2』開発の経緯について、改めてお願いします。

酒井氏
酒井: 12年前に『PSO』を発売してから、これまで多くの派生作品を作ってきましたが、そろそろ新規で、しっかりしたオンラインRPGを立ち上げたい、という思いが強まってきました。そこで『PSO』の意思を受け継ぐようなもの。具体的には、オンラインRPGをもっと多くの人に広められるようなものを作りたいと思い、『2』を企画しました。ナンバリングタイトルへの手応えもありましたし、もっとオンラインに向き合ってみようと。

―――オンラインに向き合うとは?

酒井: 最初からオンライン専用のゲームとして息の長いゲームにする、という意味です。それと共にPCをメインのプラットフォームとしました。セガはこれまでコンシューマ中心で、パッケージゲームを作ってきたため、かなり挑戦的なプロジェクトだったと思います。経営陣に企画のプレゼンをする時も、その点を意識しました。

―――『2』の「推しポイント」について教えてください。

酒井: 「飽きのこない無限の冒険を提供する」「オンラインRPGとして最高峰のアクションを目指す」「究極のキャラクタークリエーションで、自分だけのキャラクターが作る」という3点です。 僕らは「3つの革命」といっているんですが、最初からこの3点はぶれないように注意しました。

―――「飽きが来ない」というのは、どういうことでしょうか?

酒井: オンラインゲームは運営が重要だと言われますよね。もちろん、それはその通りで、『PSO2』でもさまざまなイベントや仕掛けを用意しています。ただ、昔と違って今はいろいろなオンラインのタイトルがありますし、ユーザの「消費」の速度も上がっています。それなのに運営の工夫だけでいいんだろうか。もっとシステム面でできることはないだろうか。そんな思いがあって、マップや敵がランダムに自動生成される、という仕組みを大胆に取り入れました。

また『PSO2』は、コンピュータRPGの元となった、テーブルトークRPG(※2)をモチーフにしています。テーブルトークRPGではゲームマスターが事前にシナリオを用意してセッションを開催するのですが、モンスターが強すぎてパーティが全滅したり、プレイヤーのダイス目が良すぎて強敵があっさり倒されたり、後々まで語りぐさになるような「伝説のセッション」がありました。そういうところも含めて、RPGの面白だと思うんです。
特にオンラインのコンピュータRPGでは、「あのゲームで、こんなことがあった」という体験を、友達と共有することが面白かったりします。そういう「仲間内で盛り上がるネタ」を常に提供できるゲームシステムって何だろうと。それが「インタラプトイベント」や「ランダムフィールド」といったシステムに繋がっています。

(※2)「テーブルトークRPG」…コンピュータを用いずに、会話とルールブックに記載されたルールに従って遊ぶゲームのこと。(例:「Dungeons&Dragons」など)

公式ウェブサイト。「終わりなき冒険」がテーマ


―――ユーザの「消費」のスピード、といいますと・・・?

酒井: 上がっていると思います。一方で作るスピードは落ちているんですよ。昔と比べて2~3倍くらいの労力がかかっています。開発チームの規模も拡大していますが、なかなか「消費」のスピードに追いつけないのが、悩ましいところです。僕も『PSO』ではデザイナーとして参加していましたが、当時は一人でモンスターをデザインして、モデリングして、テクスチャーを書いて、アニメーションしてエフェクトを作って、それが普通だったんですよ。でも今はみんな分業化されています。その結果、『2』では開発スタッフも前作に比べて2~3倍になっていますね。

■PS Vita版のことは考えずに作った

―――開発スタートはいつくらいですか?

酒井氏
酒井: だいたい3年くらい前です。2009年の『ファンタシースターポータブル2』発売前後から企画が立ち上がり、そこから平行作業で進めてきました。最初は10名くらいのチームでしたが、だんだん他のプロジェクトが終わったスタッフをとりこんでいきました。今では運営スタッフも含めて、100人くらいのチームになっています。

―――基本プレイ無料という点に驚きました。

酒井: できるだけ多くの人に遊んでほしかったんです。また月額課金だと登録ユーザ数の増減が運営側に与えるインパクトが少なからずありますが、アイテム課金はその辺がコントロールしやすい側面があります。だったら、最初から基本プレイ無料が良いだろうと。

―――会員数は増えましたか?

酒井: おかげさまで、滑り出しは順調です。これまで『PSO』シリーズはPSPでの60万本が上限でしたが、もうすぐ100万IDに届きそうです(※3)。アクティブユーザーも相当な数になっています。これだけ多くの会員数を抱えたオンラインゲームは、日本では珍しいと思います。もっとも、順風満帆というわけにはいかず、さまざまなトラブルの連続でした。こちらも日々対応しているんですが、サーバが繋がりにくいなど、まだまだ改善をしていかなければいけません。

(※3)インタビュー時点(2012年9月)。現在は100万ID突破。

―――PCだけでなく、Vita、スマホでの発売も決まりましたね。

酒井: 『PS』シリーズはPSPで大ヒットしましたし、ちょうどPS Vitaが登場しました。PCとPS Vitaの両方で遊べるタイトルは新しいし、オンラインRPGを広める上でも良いだろうと思いました。

またスマートフォンやソーシャルゲームのユーザにも、本格的なオンラインRPGをプレイしてほしいという思いもありました。『ファンタシースターユニバース』では「PSU Mobile」というモバイル専用サイトを作りましたが、アクティブユーザのほぼ半分が利用するくらい、人気があったんですよ。

大前提として、PCオンラインRPGを遊ぶプレイヤーって、今はかなり固定化しているんですよ。これ以上増えないんじゃないかという人もいるくらいです。こうした現状を、なんとか変えられないかと思いました。スマートフォン版は今冬、PS Vita版は来春発売予定です。東京ゲームショウで出展したところ、どちらも評判が良かったので、楽しみですね。

■トランステクノの感じをゲームでも出したかった
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CEDECでの講演資料


―――話は変わりまして、サウンドについてお伺いしていきます。まずプロシージャルBGMというアイディアは、どこから産まれてきましたか?

酒井: そもそも『PSO』で、戦闘時と通常時でBGMがシームレスに切り変わるという仕様があって、これがユーザの間で評判が良かったんです。それが『ファンタシースターユニバース』ではメモリの関係で実装できず、ユーザにも残念に思われていましたので、『ファンタシースターZERO』で復活させたくらいです。それで『PSO2』でこの方向性をさらに進めてみようと思ったんです。

・・・また、一時期僕はクラブにはまっていたんです。クラブではDJがその場のノリで曲を変えていって、踊っている人をトランスさせていきますよね。そういうのがゲームでも実現できないかなあと思って、小林に相談したんです。トランステクノみたいに、ユーザの「俺、格好いい!」という感情を、より音楽で盛り上げられるようなシステムができないかって。

それには、ただ曲を切り替えるだけではなくて、段階的に音色などを積み上げていく必要があるんじゃないかなと。そんな時に、ちょうどCEDEC2009でCRI・ミドルウェアさんの「アダプティブ・ミュージック」の講演を聴いて、これは面白そうだと。

CRI:「ゲーム音楽を変える『アダプティブ・ミュージック』とは?〜新世代のサウンド制作技術のご紹介〜」というセッションですね。「アダプティブ・ミュージック(※4)」でいうと、よくある残り時間が減少すると、BGMがテンポアップするなどは好例だと思います。弊社のミドルウェア「CRI ADX2」では、この機能をサポートしています。

(※4)「アダプティブ・ミュージック」…ゲーム内の状況に応じてBGMをリアルタイムに変化させる概念のこと。

小川氏
小川: それまで「戦闘時と通常時で曲が変わる」といっても、あまりシームレスにできていなかったという反省点がありました。それがCRIさんの講演で「ゲーム中に、ゲームパラメータを元にリアルタイムにBGMを変化させることができるシステムを、オーディオマルチストリーム環境で実現できる」と伺って、これはいいと。さっそく研究をはじめました。

実は私はサーバに加えて、マップ周りも担当していまして、ランダムマップに関する最初の仕様を決めていたんです。それでランダムマップと、プロシージャルによるBGMの変更は相性が良いのではないかと思いました。もっとも、実際のシステム作で大変だったのは小林なんですが(笑)。

―――CEDEC2012の講演でも触れられた部分ですが、具体的にどのような流れでプロシージャルBGMを実現されたのでしょうか。

今別府氏
今別府: 「ADX2」でアダプティブ・ミュージックを実現するためには、はじめにどういった順番で音を鳴らすかをデータ化して、「ADX2」に流し込む必要があります。そのためのツールとして「Sympathy」というシステムを作成しました。「Sympathy」でデータを作って、「ADX2」で出力するというのが、基本的な流れとなります。最初のバージョンを作ったのが2年半前で、そこから必要な機能を徐々に追加していきました。

小林: もともと僕も『PSO2』で「無限の冒険を提供する」というのであれば、プレイの度に全然違うBGMを提供できたら良いなあと思っていました。一方で酒井から戦闘中に、だんだんBGMが盛り上がっていくようにできないかというオファーがありまして。両者をうまく組み合わせようと思い、自分で「Sympathy」の仕様を書きました。そこから今別府に相談して、ツールを作り上げていきました。

―――楽曲データはどのように構成されたのでしょうか?

小林氏
小林: 基本的な考え方としては、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏といった具合に楽曲の構成要素を分けて、それぞれを構成するパーツを大量に作っておき、毎回自由に組み合わせるというものです。これらのパーツは、パート・楽章・フレーズ・クリップというように階層構造で管理されています。

その上で、「ADX2」では複数音同時にストリーミング再生できるので、メロディライン・アレンジ・リズム・予備という風に役割分担を設定しました。本作では「PSE(※5)」というボーナスタイムがあり、一定時間エネミーが大量に出現するんですが、そのために専用のリズムを作っておき、リアルタイムで差し替えるといったことをしています。

(※5)「PSE」…Photon Sensitive Effect。エネミーを撃破していくと発生することがあるボーナス効果。キャラクターの能力向上、経験値の増加といった多種多様な効果が得られる。

―――作り手側で意図しないような曲も産まれたり?

小林: はい、ありますね。自分でも完成形が分かってないんですよ(笑)。細かい部分では音のつながりのパターンがいくつか決まっていたりもするんですが、それが繋ぎあわされた時に、想像以上の盛り上がりが生まれて驚いたこともあります。

逆にいうと、完全にランダム再生なので、同じような印象のメロディが連続する恐れもあります。そのため、あらかじめ異なるメロディラインを2つ用意しておき、再生する度に切り替えるなどの機能も、後から付け加えていきました。

■『PSO』と『PSO2』ではテンポが倍くらい違った

―――ゲームの状況に合わせて変化する部分のパラメータ調整について詳しく教えて下さい。

今別府: 「ヒーロー度」「ピンチ度」「盛り上がり度」という3つのパラメータを設定しました。ヒーロー度は近くのブーストエネミーの強さや、倒した小ボス・中ボスの強さなど。ピンチ度は近くのエネミーの強さや、自分たちの残りヒットポイントなど。盛り上がり度はヒーロー度・ピンチ度に加えて、どれだけゴールに近づいたか、などの要素を加味しています。

これらの値を「Sympathy」に送って、楽曲データの選択に影響を与えていきます。ヒーロー度とピンチ度は、その瞬間ごとのサウンドに影響を与えてます。盛り上がり度は、次にどんなパートを演奏するのか。たとえばメロを繰り返すのか、サビに移行するのか、などの判定に使っています。

楽曲の構成に影響を与えるゲーム要素


―――なるほど、状況を3つに整理されたんですね。

小林: 最初はいろいろなアイディアが出ました。プレイヤーキャラクターのHPが一定以下になったらBGMを変更する、などの定番から始まって、パーティの人数が減る度に音楽を変えていくのはどうだろう、とか。開発が進むにつれて、状況が想像以上に多岐にわたることがわかって、途中から逆に、できるだけシンプルにしようという流れになりました。

今別府: いろんな要素を盛り込んだあげく、最終的に収拾がつかなくなるのが怖かったんです。そこで何を表現したいかについて、さまざまなディスカッションを行いました。その結果「俺、強い!」「死んじゃう、ピンチ(汗)」「盛り上がってきた!」という3要素が必要だと言うことがわかってきたんです。そこで、この3つを柱に、細かい部分を後から決めていきました。

―――ゲーム中の状況変化は、どのくらいの頻度でサウンドに反映されているんですか?

小林: 1−2秒単位で切り替えています。音の最小単位も、最初は『PSO』と同じように3−4秒にしていたんですが、テストプレイをしたところ状況の変化が速くて、そんな尺では切り替えに全然追いつけなかったんです。そこで半分の1−2秒くらいに細分化しました。それくらい『PSO2』ではゲームのテンポが速くなっていたんです。また、メロディを2小節単位で区切って、自然に繋がるような工夫もしています。

―――通常のゲームサウンドと、作り方が大きく違いますね。

小林氏は実際の開発環境を用いながら解説してくれた
小林: そうですね。普通のゲームミュージックだと、まず一つの曲を完成させてから、それを分割して使用することが多いと思います。実際に『PSO』がこのスタイルで、当時は作った曲と曲を「ADX」でシームレスに連結し、BGMとしていました。それが今回は、曲そのものを主旋部分やアレンジ部分といったパートごとにバラバラに分解し、それらをツール上で自由に組み合わせるような作り方になっています。

普通に曲を作ってバラバラにしたものもありますし、最初から完成形を考えずに、メロディやフレームだけを作っておき、それらをツール上で無作為に並べていって、リアルタイムに曲を構築するようなやり方をしている曲もあったりします。

他にも過去作品のBGMのフレーズもまぜています。たとえば『PSO2』の森林ステージでは、『PSO』の森林ステージのフレーズを紛れ込ませておいて、特定の条件下で流れるようにしています。昔からのユーザさんには好評ですね。そういった遊びも、たくさん入れてあります。

―――同じようなやり方をしているゲームもありますが、『PSO2』では環境音ではなく、楽曲として聞かせようと頑張られているところが驚きです。

小林: それぞれの繋がり方を状況に応じて変えるなどの工夫をしました。『PSO2』では1ステージが通常曲・戦闘曲・通常から戦闘に移る時の切替用楽曲・その反対の切替用楽曲、そして急激戦闘曲という、5つの曲から構成されています。切替用楽曲というのは、戦闘に入る際に1回だけ流れる、ファンファーレのような楽曲です。こんな風につなぎの曲を用意することで、よりシームレスに聞こえるような工夫もしています。

戦闘から平常への楽曲の切り替え


■Windowsの表示制限をオーバーした!?
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―――それにしても、データ量が膨大になりそうです。

小林: どれくらいのデータ量にするか、ゲームプログラム側から明確な指示がなかったんです。それで、自分で作りたいだけ作ってしまいました(笑)。

―――実際に「Sympathy」をプログラムする上で苦労された点はありましたか?

今別府: いろんな人に聞かれるんですが、実はあまり苦労してません。ただ、大量のサウンドファイルを組み合わせて再生するためのルールの設定は、結構苦労しました。一応どんな順番でも再生できるようになっているんですが、ちゃんと曲として聞こえないといけませんよね。そこで最終的に決まった構造でしかエディタ上で並べられないように、わざと制限を付けました。

こうしたルールがなければ、特に不具合が出た時に、わからなくなるんですよ。なにしろサウンドなので、ちゃんと意図した通りに鳴っているかとか、ホントにわからなくて。そこが大変といえば大変でした。

―――たしかに、デバッグは大変そうですね。

小川: はい、苦労しました(笑)。QAチームから「BGMが一瞬消えたんですが・・・」などと報告があっても、どこが消えたか分からなかったり。

今別府: そこはログを出して、リアルタイムに中身の状況を画面に表示したりして対応しました。

小林: とにかくサウンドのファイル数が桁違いなので、個々のサウンドファイルの命名規則を考えるのが大変でした。このファイルは、どの階層構造に属していて、その中の何番目で、テンポやビートはいくつなのか、といった情報をすべてファイル名に反映させて、Excelで一括管理できるように工夫しました。そこまでしてから、エディタ上でサウンドファイルを流し込んで、編集していくわけです。今までのタイトルと比べて、楽曲を完成させるためのステップが一つ増えましたね。

今別府: エディタ上ではサウンドファイルが横一列に並んでいて、曲を再生すると今、どのファイルが鳴っているのか、すぐにわかるようになっています。ただ、並んだデータの数がすごかったんです。Windowsはデスクトップで幅が65000ピクセル以上になると、その部分はクリックできなくなるんですが、開発中にその制限を超えてしまって、画面をクリックしても反応しなくなった時はさすがに驚きました(笑)。

開発で利用されたエディタ


―――BGMで挑戦したいことはありますか?

小林: もっと細かいレベルで曲を作ってみたいですね。本作では1-2小節単位でフレーズを作っていますが、さらに短い単位、たとえば4分音符や2分音符くらいで組み合わせて、フレーズそのものを作るようなものです。

増田: ボス戦でボスの状態が変わる時に、曲の位置を変えたり再生するトラックを変えたりしているんですが、そのタイミングで「シャキーン!」のようなSEをならす構想があります。今後の展開によってはそうした要素が加わるかもしれません。

■とにかくSEの量が多い『PSO2』

―――BGM以外の、非プロシージャルな部分では、ADX2をどのように使われましたか?

今別府氏
今別府: SE、ボイスの再生、ストリーミングなど、一通り使っていると思います(笑)。特にAISAC(アイザック)(※6)は、ゲーム状況にあわせて変化するインタラクティブサウンドをサウンドデザイナーだけで実現できるので、思った通りの演出が手軽にでき、とても助かりました。プレイヤーがピンチになるとエネミーの叫び声が甲高くなったり、トンネルや洞窟内で反響音が自動的に変わったり、いろいろな場面で使っています。

(※6)「AISAC(アイザック)」…「ADX2」の機能。サウンドの音量やエフェクト、ピッチなどのパラメータを状況によって変化させ、インタラクティブなサウンドを作成できる。

小林: 「ADX2」のツールをいじるのが楽しくて(笑)。BGMと同じようにSEでも、状況に応じた多彩な表現をしたいと考えていました。そこでキューに含まれる素材をたくさん用意して、ランダムで再生したりしました。たとえば敵が地面に卵を落として、そこから地面が盛り上がって雑魚敵が出てくるシーンがあるんですが、その時に土が盛る音を10種類くらい用意してランダムで鳴らしたり。

―――なるほど。

小林: 他にオンラインゲームならではの要素である、自分の攻撃が敵に当たった時に鳴るヒット音でも使用していますが、『PSO2』では、より爽快感の増すヒット音を目指しました。単に音圧を上げるだけでは、多人数で一緒に遊ぶため、すぐに音が飽和してしまう。そこで、なるべくプレイヤーを中心にヒット音が減衰するようにして、離れているプレイヤーには特定の要素の音以外は鳴らさないようにしました。これ以外にも、特定のSEについてはバスを通してコンプレッサーを入れて、音が飽和しないような処理を入れたりしています。

―――かなり丁寧につくりこんでいますね。

小林: キャラクターの体型に応じて足音のピッチも変えています。背が高かったり太っていたりすると、足音が少し重めになったり、反対に背が低かったり痩せていたりすると、少し軽めになったり。このあたりもオンラインゲームならではの使い方でしょうね。

また本作では天候の概念がありますが、雨が降ると川の水流音が大きくなったり、といった調節も簡単でした。雨は天候に応じて、豪雨から小雨まで対応しています(笑)。

プレイ中にジェット機が航空支援してくれる時の音にもこだわりました。ジェット機が離れるにつれてカットオフのフィルターをかけたり、リバーブの成分を増やしたり。

小川: こんな風に良い意味で、やりたい放題でした。最初に小林がSEの仕様書を書いてきた時、その量に驚きましたが、結果的に当初の2-3倍にまで膨らんでいます。ここにいるメンバー以外は、全体像がわかってないと思います。

増田: とにかくこのゲームはサウンドのために使用しているシステムの数が多いんですよ。僕は途中からチームに加わって、サウンドのシステムも担当するようになったんですが、ソースコードをみて驚きました。

小林: プログラマーとは、僕の方でAISACでコントロールする項目や用途を考えておき、あるタイミングでお願いして実装するようなかたちで調整していました。

AISACによるSE制作についてムービーを提供いただきました(ジェット機音、足音、水音のデモムービー)


■他プラットフォーム版のサウンドはどのように!?
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小林: 『PSO2』では過去のシリーズと同じく、マイルームにジュークボックスという機能があります。プレイヤーが冒険を通して入手したディスクアイテムを再生して、好きな音楽が聴けるというものです。でもサウンドデータがますます大量になってしまう・・・。
そこで「ADX2」の中でも圧縮率の高いサウンドコーデック「HCA」の採用を検討しています(※インタビュー時点)。PS Vita版の移植を行う上では、圧縮率がポイントになりますので。

(※7)「HCA」…「CRI ADX2」の高音質・高圧縮の独自サウンドコーデック。

今別府: PC版でもパッチサイズが大きくなりすぎるとダウンロード負荷が高まるので、容量の問題は重要ですね。

―――ちなみに、スマートフォン版の音楽はどうなりますか?

小林: さすがにPCやPS Vita版と同じにはできませんが、なんとか状況に応じて変化するBGMに聞こえるようにできないかと、いろいろ考えています。たとえばPC版のBGMをベースに、短い単位でループするような曲をいくつか用意しておいて、ランダムに再生するようにするとか。

―――スマートフォン版でも、みんなヘッドフォンで音を聞きながら遊んでくれると良いですね。

小林: そうですね。どのプラットフォームでも一番データ容量を必要とするのはサウンドなんですが、特にスマートフォンではデータをすべてオンメモリにしなければならないので苦労しています。 曲が短いとすぐ終わっちゃうし、長すぎるとゲームのテンポにも影響するので、バランスを考えながら作っています。

―――それにしても、盛りだくさんで驚きました。

小林: やっぱり、『PSO』で楽曲の切り替え機能が、ユーザに評価されたことが背景としてありました。『PSO2』ではそれに加えて、新しいことにチャレンジさせてもらえる環境ができていましたね。

今別府: サウンドはどうしても後回しになりがちですよね。人によっては音を聴かずにゲームを作っていて、音がバグっていても誰も気づかなかったり。それじゃダメなんだと。ちゃんとユーザは音楽を聴いているんだと。それはすごく意識しました。

小川: 実際、この物量でこれだけ複雑なものを組み込むのは、普通のプロジェクトでは通らないでしょう。序盤のROMでBGMを二曲入れた時、どれくらい時間がかかったのかとディレクターに聞かれて、二ヶ月かかったと正直に言ったら、それくらいならいいかと許してもらえました(笑)。おかげで、ここまで作り込めました。

■スピーカーの音量を大きめにして遊んで欲しい

―――最後にムービーについても教えてください。ミドルウェアに「CRI Sofdec2」を使われていますが。

今別府: 目玉は、ロビーの巨大シアターでムービーを流している演出ですね。板ポリゴンにムービーを貼り付けるだけで、簡単に実装できて驚きました。低スペックのPCでも途切れることなく再生できています。

小川: BGMとムービーのサウンドが被らないように、プレイヤーがシアターに近づくとBGMの音量が自動的に下がるようにしています。シアターでは他社さんとのコラボレーション動画も流しています。評判が良かったので、またやりたいですね。

―――ロビーは一人で何かやっているか、他人とチャットしている空間なので、その時にネタとして動くものがあるのはいいですね。そこで動画を使うというのは聞いたことがなかったので、驚きました。

小川: ありがとうございます。

―――今後、技術的に気になっているところや、挑戦したいところはありますか?

小林: サウンド面では、プロシージャルBGMのシステムが形になってきたので、これをさらに自然にしたいです。もっとプレイヤーの状況に即した、より印象的な音を、欲しいタイミングで与えられないかとか。今回はまだランダム要素が多いので、そこまでピンポイントなニーズを満たせるような音楽に、まだなっていない気がしています。もっと細やかな表現を目指したいですね。

小川: 今はユーザのプレイスタイルで曲が変わるシステムになっていますが、いくつか選択肢を用意しておいて、ユーザが気分にあわせて選んだら、それにあったBGMが自動生成されるようなアイディアもありました。今回は実装していませんが、次回は挑戦してみたいです。

今別府: 今すぐにというわけではありませんが、もともと映画音楽のようなゲームサウンドが理想のイメージとしてありました。ロビーから通常移動、そして戦闘、勝利といった一連のサイクルが、まるで一つの音楽というか、オペラでも聴いているような感じで楽しめればいいなあと。

増田氏
増田: 同じようにボツになった仕様として、ほかの人と音楽を共有できるような仕組みも提供したいなと思っています。『PSO2』はオンラインゲームで、みんなと楽しむ、コミュニケーションするというのが、根底にありますよね。だから、たとえばロビーにトランペットなどがおいてあって、それに触れると音が出て、集まっているメンバーで演奏したり、メンバーによって曲が変わったり、それがギルドのテーマ音楽になったり。そういった要素があったら、面白いんじゃないかと思っています。

―――ありがとうございました。それでは最後に一言ずつ、これから遊ばれるユーザと、開発者向けにコメントをお願いします。

白熱したインタビュー。会議室の時間をオーバーして急遽ロビーで続きを実施
酒井:『PSO2』はおかげさまで間もなく100万IDを迎えます(※3)。PS Vita版、スマートフォン版を控えて、さらに進化を続けていきますので今後も応援をいただければ幸いです。そしてファンタシースターシリーズは25周年を迎えて、「シンパシー2013」というオーケストラコンサートの開催も決定いたしました。サウンドでも盛り上がっていくファンタシースターシリーズに今後もご期待ください。

開発者の皆様には、私はゲームと言うインタラクティブなメディアだからこそできるサウンドと言うものがあると思っています。「Sympathy」によって、よりプレイヤーの心情に近い音楽を奏でられるようになったのは、ひとつの進化だと思っています。アダプティブミュージックはゲームのサウンドに大きな可能性を与えてくれると思いますので、ぜひいろいろと開発者の皆さんも試してみていただければと思います。

小林: まずユーザさんに対してですが、『PSO』の音楽は「無限の冒険」にあわせて、「無限の音楽」を提供できるように作っています。長時間プレイしていただいても、ずっと聞いていただけるような音楽を目指してがんばって作っていますので、どうか遊んでお聞きになってみてください。開発者の皆さんへですが、楽曲制作ソフト上で完成させてから、データ出力、専用ツールへの組み込みといった作業が必要なところで、通常の楽曲制作よりも手順は増えてしまうのですが、「ゲームをプレイして初めて楽曲が完成する」という経験は、なかなか得られないものだと思います。

小川: ユーザの皆さん、我々はアップデートに向けて鋭意開発中です。皆さんが遊ばれるスピードに負けないように、コンテンツを追加していくつもりです。BGMやSEもこだわって作っているので、今回の記事で興味がわいたら、ちょっとだけ気にしながら遊んでみてください。開発者の方には、サウンドはまだまだ、いろんな可能性がありますので、普通にBGMやSEを鳴らすだけでなく、どんどん掘り進んでいくと、ゲームの方向性もまた変わっていくんじゃないかなあと思います。

今別府: ユーザさんには、ぜひ音量を大きめでプレイしてほしいですね。PS Vita版もがんばっていますので、発売されたらぜひ手に取ってみてください。開発者の皆さん、「Sympathy」というシステムは、もともとユーザの意見にこたえて作り込んだという経緯があります。ユーザはちゃんと音楽を聴いて、覚えてくれています。ですから、なるべくサウンドを後回しにしないで、特にBGMは後回しにしないで、作ってもらえればと思います。

増田: 僕は途中からチームに加わって、BGMを担当するようになった時、ボス曲の案を聴かせてもらって、すごく感動しました。ゲームを遊んで盛り上がってきたら、曲もそれにあわせてどんどん盛り上がっていくという、この僕が感じた感動を、ぜひユーザの皆様にも感じてもらいたいです。ぜひボス戦では耳を傾けてください。

開発者の方々に向けては、サウンドが後回しになる理由として、どうしても鳴らすだけとか、機械的な作業という印象が、周りに浸透しているからかなと思っています。『PSO2』では、サウンドを使うとこんな風に楽しい、こんな風に遊べるというのを、うまくアピールできたことが、ここまで作り込めた理由だと思っています。ぜひ、サウンドの利点を社内にうまくアピールしてください。

ありがとうございました


AISACによるSE制作についてムービーを提供いただきました(打撃、銃撃、爆破)


『ファンタシースター』シリーズが今年25周年を迎えることを記念して、オーケストラの演奏による記念コンサートが決定しました。現在、演奏楽曲のリクエストも受け付けていますので、ぜひ公式サイトをチェックしてみてください。

「ファンタシースターシリーズ25周年記念コンサート シンパシー2013」
日時:2013年3月30日(土) 昼・夜2回公演予定
会場:日比谷公会堂
コンサート公式案内:http://phantasystar.sega.jp/psportal/25thanniversary/


株式会社CRI・ミドルウェア
http://www.cri-mw.co.jp/

●記事に登場するミドルウェア「CRIWARE」についてのお問い合せ
http://www.cri-mw.co.jp/inquiry/
TEL: 03-6418-7081

●「CRIWARE」の採用タイトル一覧
http://www.cri-mw.co.jp/example/

DEVELOPER'S TALK記事一覧
《小野憲史》

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