なぜ、学生版CEDEC「ゲームのお仕事−業界研究フェア」が始まったのか・・・新清士「人とインタラクティブの間」 第2回 | GameBusiness.jp

なぜ、学生版CEDEC「ゲームのお仕事−業界研究フェア」が始まったのか・・・新清士「人とインタラクティブの間」 第2回

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9月1日〜3日の日程で、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2009が横浜パシフィコで開催されます。今年は、それに併設される形で、経済産業省の支援の元、CEDEC「ゲームのお仕事−業界研究フェア」というものが開催されます。

3日間で、30セッション以上という非常にボリュームのある内容で、ゲーム業界への就職について、関心のある方にとっては有益な情報を得る機会になると思われます。当日の講演内容を見てもらえるとわかると思いますが、非常に実践的かつ、幅広い議論が行われることになっています。「全世界の市場動向の解説」から、「同人ゲームの実情」といったものまで、実際には、プロが聞いてもおもしろいと感じら得るような、中身の深いテーマも多い構成になっています。

その上、国のコンテンツ産業への人材育成を目的とした予算で開催されるため、なんと入場料は無料です。一応は、「学生版」とうたっていますが、実際は、すでに就職している人でも参加は、問題はまったくありません。関心のある方には、主催者側の人間の一人として、ぜひ参加をお願いしたいと思っています。

■日本のゲーム産業に欠けていた仕事紹介の機能

この「お仕事フェア」が実現した背景には、数年前からの議論がありました。

日本のゲーム業界にとって大きな問題です。CEDECや「東京ゲームショウ」には以前から決定的な弱点があったと思っています。多くのゲーム産業に参加したいと潜在的に考えられている学生向けに、業界として、仕事内容について、まとまった情報を提供するというという努力が不足していた点です。

一般的な就職活動と同じで、各種企業がバラバラには展開してきたものの、実際、ゲーム開発の仕事というのは、いったい全体どのようなことをやっているのかは、外部から見えにくく、不透明な印象があるのはぬぐいきれない部分があります。そのため、どういったスキルが必要で、どのような学習の努力を行っていけばいいのかが見えにくいという課題を抱えています。

CEDECがそもそもモデルとしているのは、毎年3月にアメリカサンフランシスコで開催されるゲーム開発者会議(Game Developers Conference、GDC)です。世界最大のゲーム開発者向けカンファレンスは、全体の会期が500もの講演やパネルディスカッションなどが行われ、参加者数も17000名に及ぶ大規模なものです。私が、運営に携わっている、国際ゲーム開発者協会(IGDA)も、そもそもの源流をたどると、1987年にこのGDCを組織化するコミュニティからスタートしています。

ただ、GDCにあって、CEDECに存在しない機能がありました。それが、「ジョブフェアー」と呼ばれる、就職情報を提供する場所です。GDCでは、各企業が就職説明のためのブースを出展し、また、就職活動のための情報を提供するセミナーも行われます。アメリカでは、日本と違い、新卒採用という概念はありません。正社員という考え方が存在しないからです。いつでも、採用される可能性がある一方で、いつでも、首を切られます。

しかし、それでも、大学の卒業が目の前に近づいている学生が、就職についての情報を獲得するためにGDCに参加する姿は毎年のことでした。アメリカのゲーム業界全体が、そういう情報を積極的に発信する場所を持っていることは、やはり、産業にとっての底上げを引き起こしていると言わざる得ない部分があります。

■CEDECの運営はゲーム会社各社のボランティアで形成しています

そのため、日本でも、同じような機能を持って、もっと多くのゲーム業界に就職したいと感じられている方に情報を提供する機会を持つべきだということは、日本のゲームの業界団体である、CESAの中でも、繰り返し議論されてきたことでした。

アンケート調査等でも、多くのゲーム業界に就職したいと考えている学生の方のなかにも、いったい、「ゲーム会社が何をしている会社なのか不透明」という結果が出ていました。日本のゲーム産業は、勝手に就職希望者が集まって来るという状況に甘えて、基本的な情報を提供する努力を怠ってきたと、私自身も思っています。

しかし、一方で、就職活動は、優秀な人材の取り合いの場でもあります。各企業の利害関係が簡単に一致しない点でもありました。

そのため、ここ数年、議論は足踏みの状態にありましたが、今年に入って経済産業省の支援という形で、何とか形に持っていくことができたのが、今年の「ゲームの仕事−業界研究フェアー」だったというわけです。ただ、やはり、実施が初めてであることは、作業に様々な負担を強いることにもなりました。

CEDECの運営は、本体の方も含めて、各ゲーム会社から、技術方面に詳しい人たちによって構成される、CESAの「技術委員会」(委員長は、コーエー松原健二社長)という部署で運営されています。なんと恐ろしいことに、ほとんどがボランティアで運営されており、どのような講演内容を構成するべきなのかと言った議論は、各ゲーム会社で危機感を感じている人たちの集まりを通じて、毎年の方針が決められています。

そして、「ゲームのお仕事」については、今年初めての試みであったために、最初の準備の取りかかりが非常に遅れました。

結局、告知が開始できたのが、8月の上旬と、すでに開催まで1ヶ月を切っていると言う状況からのスタートになってしまいました。しかし、運営に関わってくださっている方、講演を用意してくださっている方の熱意は高く、多くの優れた講演が行われることになるでしょう。また、各企業の人事担当者もその場にいますので、実際にゲーム会社の人に直接様々なことを聞ける、珍しい機会でもあります。

そのため、ぜひ、この機会を無駄にすることなく、積極的に利用して頂きたいと思います。

■世界市場の状況について知る良いチャンス

ところで、私自身は、この「ゲームのお仕事」で2つのセッションを担当します。どちらも初日の9月1日(火)のセッションです。一つは、「徹底分析・データでみる世界ゲーム市場の現状と未来図」(13:30〜14:30)での講演、「ゲーム業界人事採用担当者対談」(13:30〜14:30)の司会を担当させて頂きます。

「徹底分析・データでみる世界ゲーム市場の現状と未来図」では、エンターブレインのマーケティング担当のリッキー谷本さんと、ご一緒しながら、世界における日本のゲーム産業の位置づけを考えていきます。

日本のゲーム産業は、世界で強い産業であるのは確かなのですが、この5年あまりの間、相対的に力が弱まっています。2001年頃に、日本のゲーム産業の規模が、アメリカ市場に追い抜かれた後、二度と戻ることはなく、現在では差が開く一方で、市場規模としては2.5倍以上の規模にまで差が開いています。これはここ数年の欧州の市場の拡大でも顕著で、日本の2倍以上の市場規模にまで成長しています。

さらに、中国やインド、南米で、パソコン用のオンライン市場の急成長が続いており、ゲーム人口と産業規模の拡大は、全世界レベルで広がっています。ところが、興味深いことに、日本だけが市場規模が横ばいから、縮小という状態にあるのです。

そのため、今の日本のゲーム会社は、大手企業だけではなく、中小企業まで含めて、急速にグローバル展開を行わなければ、今後、企業として成長し続けるのが難しいのが確実になってきています。

私自身、よくコラム等を書いていて感じることですが、この世界の趨勢について、関心をしっかりと持たれている方は、ユーザーレベルでは多くないように思います。もちろん、言葉の壁という大きなハンデを、我々日本人は抱えているのが一つの原因ですが、今後ゲーム業界を目指そうとしている方は、否応なく、この世界的な市場の変化について考える必要があります。

一緒に講演をさせて頂く、谷本さんは、エンターブレインで『ファミ通白書』など、データの集計を担当されているプロフェッショナルであり、普段、多くの全世界の市場の動向について通じておられる方です。通常、表に情報として公開されない、多くの情報を使って、世界の動向をお知らせする内容になると思います。ちなみに、CEDEC本体の方にもこうしたマーケティングを意識したセッションがないので、すでにプロとして活躍されている方にも、内容的に発見のある内容になると思っています。

■人を採用するという仕事

「ゲーム業界人事採用担当者対談」は、フロム・ソフトウェア、AQインタラクティブ、ナウプロダクション、アトラスという4社の企業の人事担当者の方が何を考えているのかを議論する、パネルディスカッションです。

先週、どのような内容にするべきなのかというミーティングを行ったのですが、議論は白熱しました。ゲーム会社にとって、当然、華があるのは開発の仕事です。では、「裏方の人事などの総合職の人は何を考えているのだろうか?」というのが、私自身の強い個人的な関心でもありました。人事という仕事は、採用という活動を通して、その人の人生を左右する重要な仕事です。しかし、一度、就職することができてしまうと、そうした人がどのように、会社を支えてくれているのかが見えなくなってくるものです。

大切なのは、人事を行っている人も、悩みを抱えながら生きている一人の人間であると言うことを、どれだけ理解できるのかと言うことです。人事担当者は、一度就職した人の状況を静かに、ずっと追いかけ続けます。会社の中でどのような関係性を持って、成長できたのかどうか、見守り続けるのです。採用が成功したのかどうかが、わかっているのは少なくとも5年ぐらいかかります。開発現場になじんで頭角を現してくる人もいれば、どうがんばっても、今の仕事が合わないという人も出てきます。

パネラーのある方がおっしゃっていたのが、そういう人に「会社を辞めてもらうようにする覚悟をどのように持ちますか?」ということでした。その方は、できるだけ他の企業などのつてをあたり、ゲーム会社の中では活かせない才能でも、他の企業では活かせる場合があるため、できるだけ可能性を探して、世話をすると言われていました。そのため、ある人を採用しようと決めるときには、その人が、「辞める場合にまで責任を持つ覚悟が必要」と言われていたのが印象的でした。

しかし、普段は、そうしたことを現場に入った開発者に向けて言うことはありません。ただ、遠くから見守り続け、現場で成長をすることを期待し続ける。だけど、何か大変なことが起きたときには、その人を何とか支えようと努力する。それが人事をしている人の気持ちなのです。


私自身は、今回のパネルの司会を「どうすれば、企業に就職できますか?」といったような、安易な質問に答える目的で引き受けたつもりはありません。一人一人の人事の方が、人間として、採用活動という本当に難しいプロセスの中で、どのように開発者の将来を考え、希望を持ちながら、努力をされているのかとういうことを紹介していきたいと思っています。

今回のCEDEC「ゲームのお仕事−業界研究フェア」は、単なる就職説明会ではありません。ゲーム会社の現場の雰囲気を、本音の話を通じながら、直接的に多くの人に知ってもらう機会として行われるものです。ぜひ、多くの方に、ご参加頂けると嬉しいと心から思っています。
《新清士》

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