激動の時代を乗り越えるためのイノベーションを探る・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第1回 | GameBusiness.jp

激動の時代を乗り越えるためのイノベーションを探る・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第1回

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立命館大学映像学部で教鞭をとる中村彰憲です。専門が国際ビジネスということもあり、これまでインサイドのほうでは、「今どきゲーム事情」というコラム枠で洋ゲーを中心に様々な欧米のクリエイターに対してインタビューを行ってきました。実はアジアに関しては、エンターブレインのゲーム業界マーケティングサービス専門サイトであるF-ismで連載を持っていたりもします。そんなこんなで今回土本編集長からこのお話をいただいたとき、テーマとして真っ先に頭に浮かんだのが「イノベーション」でした。この言葉が現在のゲームビジネスにとって、最も重要なキーワードだと思うからです。

イノベーションという言葉は、ゲーム業界内でもよく使われているようです。任天堂の岩田聡社長もGDC06において、ニンテンドーDSやWii(当時はレボリューションと呼んでいましたが)を開発するにあたり、破壊的イノベーションを重視したと述懐したことはあまりにも有名ですよね。

一般的にイノベーションは技術的発展についてのみ言及すると考えられがちです。ただ、「キャズム」で有名なジェフリ・ムーアは、「ライフサイクルイノベーション」の中で、ビジネスにおいてイノベーションは技術的革新のみならず、事業に関わるあらゆる段階で起こりうるとし、ビジネスサイクルにおける14種類のイノベーションについて分析しました。考えてみれば、岩田社長も前述の講演の中で、『脳トレ』を破壊的イノベーションの実例としてあげていました。これは純粋に技術的革新というよりは、ゲームデザインにおける新たな発展という意味でのイノベーションですから、まさにムーア氏の言及した広義の「イノベーション」のとらえ方に近いと思います。

本コラムにおいては、筆者もこれらの例にならい、イノベーションという言葉をより広い視点で捉えつつ、現在のゲームシーンで繰り広げられるイノベーティブな瞬間を、出来る限り当事者のインタビューやコメントなどを織り交ぜながらフィーチャーしていきたいと思います。ただし、第一回目となる今回は、筆者が株式会社エンターブレインとともにおこなっている社会人向け講義の内容を紹介しつつ、ゲーム産業をとりまく概況について解説していきます。

大阪で開催している連続講義。受講者のまなざしも真剣です


成長の鈍化を予兆する欧米ゲームマーケットの不吉な変化

前述の講演は、「不況に勝つ!新世代ネットワークコンテンツ戦略」と題した株式会社エンターブレインと立命館大学映像学部との共同よる連続講義。8月第1週まで続く同講義の第1回目は、株式会社エンターブレイン、マーケティング局、海外マーケティング担当部長であるリッキー谷本氏が「世界不況の中、欧米ゲーム市場で起きていること」と題して講演しました。今回はその模様を紹介していきます。

まず、冒頭で、リッキー氏はゲームの世界市場について言及。ハード及びソフト市場(PCゲームも含む)を合算したものをグラフで示しつつ、07年4兆7000億円だったものが、08年には5兆円に拡大したと指摘。

ただ、同時に世界金融恐慌の荒波は米国、欧州ともに確実に訪れており、その影響は09年前半から確実にあらわれているとのこと。このような流れの中で、欧米ゲームビジネスの将来を左右しうる懸案事項について語りました。

世界のゲーム市場。欧米のプレゼンスは急激に拡大している


まずは、ゲームショップの寡占化です。米国ではGameStop、Wal-Mart、Best Buy、Target、そして Toys"R"Usの売上が全売上のうちの67%を占めるという状態のようです。小売店にとっても新規参入が難しい時代になったと言えるでしょう。ちなみに、ゲーム専門ショップはGame Stopのみ。以降は、総合ディスカントストア、家電量販店2店ならびに日本でもおなじみの玩具量販店で、如何にこれら量販店が米国におけるゲーム販売で大きなプレゼンスを誇っているのかを垣間見ることが出来ます。

ここで、谷本氏は、欧米におけるゲーム販売の特徴であるPrice Protectionについて言及。日本の小売店は一旦、商品を発注した後の返品は不可能ですが、欧米においては、Price Protectionルールが働き、返品も自由な上に、価格も自由に設定出来るとのこと。更に販売する棚をパブリッシャーが買い上げるという制度も存在し、その棚を確保しないと自らの商品が顧客の目にとまらないという可能性が出てくる場合も。このような状況下、初期出荷で2万本以上販売されないと、残りの4万本はキャンセルされてしまう事態に。商品がすばやく中間業者に流れてしまうということも往々にしてあるとのこと。 結果的にゲーム価格の下落も同時進行で進んでしまいます。08年に販売されたWiiを除くすべてのソフトの平均価格が07年のそれに比べ、2%〜7%の割合で下落するという結果につながっています。あるPSPの映画ライセンスモノは、ニューリリースでも4ドルで販売されるという厳しさ。新作だけでは勝負できない小売店の状況がひしひしと伝わってきます。

全米小売トップ5。量販店が圧倒的なプレゼンスを誇る


欧米市場の新たな脅威―中古ソフト市場の急激な拡大

このような状況に呼応するかのように台頭したのが中古ゲーム流通。谷本氏によれば、米国ではゲームレンタルがNintendo Entertainment System(米国版ファミリーコンピュータ、以下、NES)時代から行われている事もあり、レンタルと新品購入がゲームショップにおけるビジネスの主流だったわけですが、大手ゲームショップ最大手であるGame Stopは、利益の5割近くが中古ゲームの売買からはじき出されているとのことです。

さらに致命的なのは、前述のWal-MartやBESTBUYなどの量販店やオンライン販売のトップ、Amazonなども中古市場に流れ始めてしまった点。ゲーム販売でも上位ランクを誇るこれらの企業の中古市場参入は、全米ゲーム小売店全体を大きく揺さぶったことでしょう。

現在、米国では実質的にほとんどのショップが中古ゲームの売買をしており、小中規模のショップはそれなしに事業は成り立たない程にまでなっているのです。欧州においても中古ゲームを卸売価格10数ドル程度で売買しているケースもあるとのこと。これらの事実を踏まえつつ、谷本氏は、巨大な市場というイメージが先行するのと裏腹に欧米ゲーム市場の大変厳しい状況を浮き彫りにしました。

Game Spotの利益の大半は中古販売が占めるゲーム価格の下落も歯止めが掛からない


高度ICT時代におけるネットワークゲームサービス時代の到来

次に谷本氏が言及したのは、エレクトロニックエンターテインメントエキスポ(以下、E3)での発表から示唆されるゲームビジネスのこれからについて。
筆者が特に興味を持ったのが、ネットというインフラの、ゲームサービスへの統合についてでした。これについては、マイクロソフトのメディアブリーフィングの要として、オンラインラジオのLast.fm、オンラインレンタル及び宅配のNetlixとの連携に加え、ソーシャルコミュニケーションサイトの代表であるFacebookならびにTwitterとの連携を打ち出したことが、それをあらわしていると言えます。谷本氏によれば、エンターブレインが日本で実施した調査では、Xbox360のインターネットへの接続率が70%。これはゲーム機の中で最も高い接続率とのことです。これらをふまえると、マイクロソフトが打ち出した戦略は、ユーザー実態を踏まえてのものであったということが推測出来ます。

ただし、谷本氏によれば、ネットのエンターテインメントにおける役割の変化について実感できた瞬間は、今年のE3におけるメディアの報道体勢そのものだったとのことです。欧米系メディアは、どの企業を見てもカメラ機材をもった極めて少数のクルーで取材し、映像素材をそのままリポートとしてアップロードするという体制が増えてきたとのこと。これは正にブロードバンド時代ならではの変容であると言えるでしょう。メディア自体がその報道手法に大きな変換がおこなわれる中で、ゲーム機におけるネットの役割が更に中核的な位置づけになると感じられるのは当然の事かもしれません。

なお、谷本氏は他のプラットホームについても言及。ソニーコンピュータエンターテインメント(SCE)については、PSP goとMedia Goとのつながりに如何なる付加価値が生まれてくるかに注目しているとしながらも、ゲーム機というよりはiPhoneを意識する必要性を改めて指摘。次世代機として準備が進んでいるであろうPSP2にも期待を寄せているとしました。また、比較的保守的に見えた任天堂の発表は、現在同社が世界市場においてひとり勝ち状態であることの証左でもあると指摘。米英での2008年における売り上げランキングにおいて、それぞれの地域でトップ4位までを独占している状況について言及し、現在のゲームシーンにおける任天堂の圧倒的なプレゼンスを示しました。欧米では任天堂から売り出された『レイトン教授』シリーズについても店頭ポップの有効的な活用とプロモーション戦略によりヒット。謎解きパズルという新ジャンルを確立したとのことです。

ただし今後の課題は、今回取り込みを実現したファミリー層を如何に長期的にゲーム市場に留めるかという点。これについては日本と同様に今後の動向を改めて見定めていく必要があるとしました。なお、サードパーティについてはこの不況の中、赤字を回避した、Ubi-softが今後の注目株であるとしました。

大激変を迎えるゲーム業界―この基本路線を受けいれることではじめて次なる発展がある

最後に今後の展望として谷本氏はデジタル流通の可能性について改めて言及。iPhone向けゲームの中でも 『Flick Fishing』が有料コンテンツで100万ダウンロードを達成した事に触れつつ、合計販売数が4000万台を達成したiPhone/iPod Touchは、文字通りゲーム向けプラットホームであるとしたうえで、より効果的なプロモーション戦略を考案し実行出来る時代となれば、インディーズバンドが一躍有名になるような音楽業界のように、小規模チームが世界でも戦える可能性を示唆しました。

以上がリッキー谷本氏による講演からの抜粋ですが、同氏が主張した結論は既存のメディアなどで主張されている内容に同調するものが多々あるものの、欧米小売店の様子をふんだんに示しながらの講演は、谷本氏が自らの足でこれらの結論を得たと実感出来る内容でした。関西にとっては、ここまで海外市場に直結した情報を得る機会は大変すくなく、そのような意味からも今回の講演内容は貴重であったと言えます。

「ゲーム業界がこれから激動の時代を迎える」というのは本講義の大テーマであったわけですが、これは、筆者がおこなう2回の講演内容も含め、本連続講演の一貫したテーマです。これは、大学側、企業側の一方が提案したというわけでなく、自然にそのようになっていきました。つまり、このテーマはゲーム産業において、煽りや偽りのない額面通りの「最重要課題」ということも出来るわけです。そして、イノベーションこそが激動の時代にあるゲーム業界において「次なる力」の源泉だとも思っています。

そのような意味からもゲームビジネスにおけるあらゆるイノベーションを貪欲に見つけ追及していこうと思います。
《中村彰憲》

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